自らの誇り

「満願」を読んで

藤井は、お世話になっていた鵜川家のことを思い出していた。鵜川妙子藤井の第二の母といって良いほど、面倒を見てくれていた。しかし、鵜川妙子は殺人を犯してしまった。
 裁判というものは、嘘か本当か分からないこともある。被告人がどういった思いで、事件を起こしたなんて本人以外分かりやしない。妙子も結局、藤井に直接、真相を話さなかった。彼女は立派だったのだ。誰にも真相は言わず、先祖を誇り、自らも先祖を模倣し誇ったのだ。何を誇りに思い、何を信仰するのなんて人それぞれだろう。人は誇りが無ければ、上手く生きていけないのかも知れない。殺人を犯してでも、守りたかった誇りがあった彼女に強い意志を感じた作品だった。

*満願 米沢穂信 新潮社*

コメント