コーヒーの味はいかがでしょうか

「コーヒーと恋愛」と呼んで

私はこの本に出会い、恋愛とコーヒーが異常に絡み合う作品で驚いた。毎回のように出てくる珈琲の文字は圧倒的だった。
 この作品は題名通りに珈琲が主役と言ってもいいくらい、珈琲が関わってくる。登場人物は坂井モエ子、お茶の間で人気の女優でコーヒーの淹れ方がうまい。塔之本勉、8つ下のモエ子の夫で舞台装置家として新劇で働く。丹野アンナ、売り出し中の若手女優で芝居を通し、勉をモエ子から奪う。菅貫一、可否会会長の資産家でモエ子の相談相手。この人物たちが主に、作品に大いに関わってくる。
 まず、勉について。モエ子は勉のことを夢を追いかける努力家のような人間と言っているが、はっきり言ってヒモでだらしない奴だと思った。モエ子に稼いで貰っているお金で生活できているのに、新劇ばかりに熱を注ぎ、まともにお金が入らない。彼はモエ子に甘えていたのだと思う。挙句の果てには、アンナと共に生活すると言って、家を出るという不倫。モエ子の精神が悪くなるのも頷けた。
 次にアンナ。彼女は図々しく、そして男に惚れやすい女だった。彼女も言動には意味がある。とにかく売れたいのだ。その為には、何でもやるような女のように映った。
 最後に菅。彼は可否会の会長でメンバーであるモエ子の8つ上である。彼はモエ子が不倫された時、再婚相手として縁談が来たのだが、彼はモエ子の淹れたコーヒーの味に興味があったのだ。その為、モエ子には自分自身を見てもらえないと見透かされてしまう。彼はコーヒーに憑りつかれた亡者だった。
 こんな感じで作品に出てくる登場人物たちは癖がある。特に、モエ子は皆から女としてではなく、コーヒーを淹れるのが得意な女優として扱われることが多く、特殊な人物だと思った。深い泥沼ような恋愛関係と、そこに加わるコーヒー。コーヒーの苦い味わいのような恋愛模様が面白い作品だった。

*コーヒーと恋愛 獅子文禄 ちくま文庫*

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