柘榴の赤い目
「柘榴」を読んで
女の男を手に入れようとする欲望は怖いのだ。何としても手に入れたいという気持ちが膨れ上がる。父は元々ダメな人間で生活力が無かった為、姉である夕子は離婚する際に親権が父にいくように企てた。それは、夕子自身と、妹の月子の体に真鍮製の靴ベラで傷をつけることだった。そうすれば、母が子を虐待していると思わせられるとしたのだ。案の定、親権は父に渡るのだが、どうしてそこまでして父に肩入れしたのだろうか。
夕子は、実の父に恋に近い感情を抱えていたのではないだろうか。柘榴のエピソードからそのような感じが見受けられる。もう一つに月子に嫉妬していたという感じも見られる。月子は自分よりも美しくなる素質があると言っている。そこで、月子にも虐待に見せかける為、夕子自ら月子に傷をつけている。虐待に見せかけるにしても、妹にも傷を作らすなんて、これには夕子の嫉妬心が含まれていたに違いないと思う。
この話には柘榴が出てきて、それが夕子と父の間の距離を近付ける。夕子は父に与えられた柘榴を口にして、父から離れられなくなったのだ。まさしく禁断の果実を食したように。柘榴の実の中の沢山の小さい果実を食べると甘酸っぱいように、夕子も父の甘い誘惑に落ちていったのかもしれない。
*満願 米沢穂信 新潮社*
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