巡り行く春 (4)
「冬」
辺りは白に包まれている。照り返す陽光が雪の白さを増して眩しい。
乾いた空気に澄み渡る青空からパタパタと忙しなく羽を動かし、私の肩に留まったのはセキセイインコだった。
「やぁ、元気してたかい?」
しばらく見ない内に、少し体が大きくなっている気がする。しかし、セキセイインコの逞しくなった体にはいくつもの傷跡が残っている。羽が抜けているところもあるようだ。過酷な旅路だったことを物語っている。
「だいぶ傷んでるだろ?俺の体。だいぶ酷使したんだ」
セキセイインコは自分の体を労わるようにくちばしで自分の背中を撫でている。
「隣の国まで行って来た。流石に遠かったな」
隣の国。どのくらい遠いのか想像が付かない。
「隣の国に行って、俺は息苦しくなっちまった。酸素が薄いって言うのかな。とにかく無機質な国だと俺は思ったよ」
しがみつくように枝先に付いていた枯葉がゆっくりと落ち、セキセイインコの前を通り過ぎる。
「それで、国の中を廻っていくうちにある重要なことに気づいたんだ」
枯葉は乾いた風に呆気なく飛ばされていく。
「自然の緑がなかった……。緑が無ければ、動物もいない。居るのは人間だけ」
枯葉はもう見えない。人間だけの国。自分たちのような動植物が取り除かれた国。枯葉のように捨てられた。
「オウムは以前にも来たことがあるみたいで、少しだけその国の話をしてくれたんだ」
セキセイインコはオウムの話を掻い摘んで話してくれた。
「そこの人間たちは、どうすればもっと楽に生きることが出来るのか考えた。そこで生活のほとんどを機械に任せるようにしたんだ。次第に機械は増えていき、人工の国と成り果てていった。食糧は動植物が居なくても科学の進歩で栄養を十分に取れるようになったらしい。まさに、鉄の国。灰色で、陰気臭い国になったとさ。俺には場違いなところだったな」
セキセイインコの話はこの世の物ではないように聞こえた。しかし、今までの付き合いからセキセイインコが嘘を言って面白がるような奴ではないことは知っている。
遠くの空から分厚い雲が流れてくる。冬の空は灰色の雲に覆われていく。
「今日の夜は大雪になるそうだ」
セキセイインコの天気予報は百発百中である。
「そういえば、最近この地域で開発が計画されているという噂を聞いたんだ。この辺一帯もガラリと変わっちまうかもな」
どこか悲しそうな瞳に驚いた。こんな表情を今まで見たことがなかったからだ。
「俺はここからの景色結構気に入ってんだけどな」
春の訪れを待ちながら、うずくまる草花の大地をただ見つめながら呟いた。
辺りを見渡すと確かに綺麗だなと思った。月夜に照らされた草花はキラキラと光り、暗闇に淡い色彩を加える。今までしっかりと見てこなかっただけに余計に美しいと思ってしまった。
そうだね。
振り向くと、もう暗闇に隠れるように飛び去った後だった。
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