巡り行く春 (2)

「夏」

ムズムズする。体が熱く、活発に動いている。今年も全身を緑色でコーディネート。毎年同じ色だけれど、これが私のパーソナルカラーなのだ。

相変わらず暑い日は続き、体の水分は着々と無くなっている気がする。しかし、一向に陽は昇り燦々と辺りを照らす。陽を避けるものもないから、真っ向から浴びる光は眩しすぎる。

赤髪の男の子がボールを蹴って遊んでいる。今日は他にも同じ年頃の子も一緒にいる。仲直りしたのかな?数日前に目の周りを真っ赤にして飛びついてきた少年は、また一つ成長したようだ。足腰のしっかりとした蹴りはボールを勢いよく彼方へと飛ばす。

ジトジトとした青空からパタパタと忙しなく羽を動かし、私の肩に留まったのはセキセイインコだった。

「ここは涼しくて良いねぇ」

緑のカーテンに隠れるようにセキセイインコは顔を隠す。

何処に行っていたんだい?

「ちょっと隣の街までひとっ飛びして来たんだ。もう俺の庭みたいなものだ」

朗らかに笑う顔の裏には、経験の余裕がある。

「隣街のジジイは俺に石を投げて来るんだ。屋台前に美味しそうなリンゴがあったから食べようとしたら、あっち行け!って石を投げて来たんだ。ずっとそこに置いてあって、誰も取らないから俺が頂こうとしただけなのになぁ」

セキセイインコは顔を真っ赤にして怒っているリンゴ売りの店主の顔真似をしながら訴えてくる。

きっとそれは人間のいう市場だろう。迷惑な鳥に店主も捕まったものだ。

「しかも、ここんところ雨も降らねーのに貴重なリンゴを食べられてたまるか!食ってやる!って必死に俺を追いかけてくるんだ。人間の脚じゃ飛べもしないのにな。嘲笑いながら逃げてやったよ」

焼き鳥にされてしまうセキセイインコを想像してぞっとした。最近の人間の世界は物騒なのだな。

「それから、仲間にもあった。しかも、たくさん居たんだ。10箱くらいの鳥籠に一羽ずつ。俺と同じ年頃のセキセイインコが、鳥籠の中で心地良く寝ていたんだ。それを見ていたらさ、なんだか2年前の、のほほんとして行きていた自分と重なっちまってよ」

一拍おいて、勢い余ってまくし立てる。

「だから俺は鳥籠をガンガン揺らして起こしてやったのさ!全員な!」

なっ!いたずらにも程があると思うが迷惑な話だと思う。

「びっくりした顔も面白かったが、ここからが本題だ」

空気がピリッと乾いた。セキセイインコは、神妙な面立ちになって話し出した。

「それから、俺は一緒にここから出てあの大空を飛んでみないか?って誘ったんだ。でもダメだった……。あいつは……、いや、あいつらは鳥籠の中のが良いって言ったんだ。外の世界は怖いって」

困惑した声色は、セキセイインコが自分と違う思考を持った仲間に会った衝撃を物語っている。

「俺は間違っていると思うか?確かに食料は自分で取らないと生きていけないし、危険な場所もある。それでも、俺は……」

言葉に詰まりながらも言葉を繋ぐ。

「飛び続けたいと思うんだ。自分の羽で。生きていると感じながら、まだ見ていない景色を見るのが楽しいんだよな」

セキセイインコの揺るがない意志を感じる。私はいつもこの強さに嫉妬してしまいそうだ。私も翼があったなら、自分の意思で旅をしてみたい、そう思ってしまうのだ。

「他にも……」

セキセイインコは小さい割には度胸がある。旅の途中で色々な危険な面にもあったに違いない。

しかし、セキセイインコが旅の話をわざわざ地元に戻ってきて、私に向かって話しに来るのには納得がいかなかった。この地に戻って来るのだって大変だろうに。

そんなことを考えていると、いつの間ににセキセイインコは飛び去っていた。



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